鍼灸治療について
皆さんは鍼灸治療に対してどのようなイメージがありますか?
まだ鍼灸治療を受けたことがない方はなかなかイメージしづらかったり、また同じ鍼灸でも色々な流派があり治療院によってやり方が全然違うということもあると思います。
ここでは基本的な鍼灸治療についてお伝えします。
鍼灸の歴史
鍼灸治療は金属製の細い鍼を経穴(ツボ)に刺し、また艾(もぐさ)を燃焼させて経穴(ツボ)に刺激を与えて病気を治す施術です。
この鍼灸治療は東洋医学の一つの分野として、2000年以上も前に中国で誕生しました。
日本には飛鳥時代に伝わってきたと云われており、明治時代の初期までの長い間漢方とともに医学の中心として活用されていました。
しかし幕末にオランダ医学が伝わってきて、その影響で徐々に衰退していくことになります。
さらに1874年日本の医学を西洋医学とする立法が制定され、東洋医学は医療の中心を西洋医学に明け渡すことになりました。
戦後も鍼灸の立場はよくありませんでしたが、その効果の高さが多くの人たちから支持を受け、現代まで受け継がれてきました。
そして近年では様々な研究施設や大学によって、鍼灸に関する研究が進み、その効果が科学的に証明され多くの疾患の治療法として利用されています。
現代の鍼灸
それでは現代の鍼灸治療はどのような立ち位置なのでしょうか。
世界へ飛躍した鍼灸
西洋医学が医療の中心となったことで、鍼灸治療を含めた東洋医学は民間療法的な立場で定着してきました。
しかしここ数十年で東洋医学は世界へ普及し、今では世界中で研究と臨床が進められています。
WHO(世界保険機関)にも鍼灸の適応43疾患が発表されたり、ツボの名称や位置が統一されまさに世界標準となりました。
今後さらなる研究と発展がなされ、鍼灸治療を含めた東洋医学は多くの医療機関に取り入れられることになると思われます。
鍼灸の資格
現在日本で医師以外で鍼灸治療を施すことができるのは、「はり師」と「きゅう師」です。
一般的に「鍼灸師」と言うことが多いのですが、実は鍼と灸は別々の資格になっています。
このはり師ときゅう師の資格を取得するためには必要な単位をとれる学校(大学・専門学校・視覚特別支援学校)に最低でも3年間通わなくてはなりません。
必要な単位を取得すると国家試験を受験することができるようになります。
国家試験に合格して免許の申請を提出し、名簿に登録されて初めて「はり師」「きゅう師」として鍼灸治療を行うことができます。
鍼灸師になるには3年から4年の間にたくさんの医学知識と基本的な実技を学ばなければならない上、学費も専門学校で400~500万円程度かかります。
資格をとるのにもかなり大変ですが、鍼灸師の仕事の魅力はどんなところにあるのでしょうか。
鍼灸師の魅力
①独立開業権がある
はり師きゅう師には自身の治療院を開業し運営できる独立開業権があります。
この権利を与えられる資格は医療系の中でも少なく、将来自分の治療院を開業することを目標にしている鍼灸師やその学生は多いと思います。
資格取得後は治療院に勤め、臨床経験を積み知識・技術を高めてから開業するのが一般的です。
②人を診て未病を治す
東洋医学の特徴は、症状だけにとらわれることなく身体全体のバランスをとるように治療することです。
これは病気や疾患を診るのではなく、人そのものを診るということです。
「未病治」という言葉を聞かれたことのある方も多いと思いますが、未病とは病気が発症する一歩手前の状態を指します。
人を診て身体全体のバランスを整えることで、病気を未然に防ぐことも鍼灸治療には可能です。
③統合医療の中心的役割
世界では西洋医学の限界を乗り越えるために、東洋医学を組み合わせた「統合医療」が注目されています。
検査をしたけど原因が分からない場合や、薬を使用することができない場合などでも鍼灸治療で症状を緩和し、患者さんの苦痛を軽減することができます。
今後統合医療を実践する医療機関は増えることが予想されており、鍼灸師の社会的価値は高まるものと思われます。
鍼灸の道具
次は鍼灸師が使う道具についてです。
鍼灸師はどのような道具を用いて治療を行うのでしょうか。
鍼
現在最も多く使用されている鍼は使い捨ての鍼です。
この使い捨ての鍼は滅菌された袋に入っていて、そこから取り出しそのまま使用するので非常に衛生的です。
この使い捨ての鍼にも長さや太さの違う様々な種類があり、鍼を刺す部位や患者さんの体格、感受性などにより使い分けています。
使い捨ての鍼はステンレス製ですが、治療院によっては金や銀でできた鍼を使用しているところもあります。
金や銀でできた鍼のように使い捨てでなくても、滅菌する機械を使ってから施術するようになっているので安心です。
この多様な鍼をツボに刺していくわけですが、日本流の刺し方は鍼管という筒状のものの中に鍼を入れてから皮膚に刺していきます。
これは江戸時代に杉山和一という方が考案された「管鍼法」という方法で、鍼管を使うことで痛みの少ない優しい鍼を施すことができます。
鍼の刺し方はこの管鍼法を用いている治療院が多いと思いますが、もちろん鍼管を使わずに鍼を刺す「撚鍼法」という方法を用いている治療院もあります。
灸
次はお灸についてです。
お灸は艾(もぐさ)を皮膚に置いて燃焼させツボに熱刺激を与えることで身体の調子を整える治療法です。
艾はヨモギの葉の裏にある絨毛という白い毛からできており、採集から乾燥・粉砕・篩いなど多くの過程を経て艾となります。
お灸の治療法は多くの種類があり、まず皮膚に直接お灸の痕を残す「有痕灸」と痕を残さない「無痕灸」に分けられます。
さらに有痕灸の中にも透熱灸・焦灼灸・打膿灸などといった方法があり、無痕灸の中にも八分灸・知熱灸・隔物灸・薬物灸・台座灸・棒灸・灸頭鍼・箱灸など本当に様々な方法のお灸が臨床で使い分けられています。
どの方法のお灸にもそれぞれ特徴があって効果がありますが、最近では市販のお灸を購入して自宅でセルフでお灸をされている方も多くなっています。
この手軽に身体のケアができるところもお灸の魅力の一つです。
適応症とメカニズム
それでは鍼灸治療を受けることで身体にどのような反応を起こし、どのような疾患と症状に効果があるのでしょうか。
現在ではWHO(世界保健機関)も鍼の効果を認めていて、次のような症状に効果があるとされています。
- 腹痛、下痢、便秘などの消化器疾患
- パーキンソン病、神経症などの神経系疾患
- 関節炎、リウマチ、腰痛などの運動器疾患
- 気管支炎、喘息、鼻炎などの呼吸器疾患
- 眼精疲労、白内障などの眼科疾患
- 不妊、生理痛などの婦人科疾患
- その他慢性疲労、免疫力強化、ストレス緩和など
このように多くの症状に効果のある鍼灸治療ですが、東西両方の医学の考え方が活かされています。
東洋医学では身体の「陰陽」や「気・血・水」「五臓六腑」のバランスが崩れることで病気が発症すると考えられています。
これらのバランスを整えるには「経穴(ツボ)」に鍼や灸をして気や血の流れる道である「経絡」の流れを整える必要があります。
経絡の流れを整えることで自然治癒力を正常な状態に保つことができ、病気を治したり予防したりすることにつながります。
この東洋医学の思想や概念は鍼灸治療を行う上で非常に大事な部分です。
西洋医学的な部分では鍼灸の効果がでるメカニズムは、すべてが明らかになっているわけではありません。
しかし近年の研究の成果により、多くのことが明らかになっています。
- 白血球が増えることで免疫機能が活性化する
- 血管を拡張させ血行を促進する
- 脊髄や脳に刺激が伝わり自律神経や内分泌(ホルモン)機能が調整される
- 鎮痛物質を放出させたり痛みを伝える神経の興奮をブロックして痛みを抑制する
- 緊張している筋肉を弛緩させて痛みや動きを改善する
などここでは挙げきれないほどたくさんのことが理解されるようになりました。
今後ますます研究は進み、新たな効果が発見されていくものと思われます。
活躍できる分野
最後に鍼灸師が活躍できる分野をみていきましょう。
リハビリ分野
統合医療の考え方が浸透することで、医療機関や訪問治療で鍼灸師がリハビリの現場で働くことが増えてきています。
鍼灸治療に加えて関節運動などのリハビリを行うことでより大きな身体機能の改善が期待でき、それがQOL(生活の質)を高めることにつながります。
スポーツ分野
最近では鍼灸師の資格を活かして、アマチュアやプロのアスリートを対象にスポーツトレーナーとして活躍する方が多くなっています。
鍼灸治療により筋肉や関節のケアだけでなく、より良いコンディションを保てるように免疫機能を高めたり身体全体の調整ができるのが強みです。
美容分野
美容鍼灸は肌が弱い方でも副作用がなく受けれるので非常に注目を集めていて、肌の悩みを内面からケアできるのが特徴です。
顔だけでなく身体全体のツボを利用することで全身の血液循環を改善させ、顔へのアプローチとの相乗効果が期待できます。